1Q84 Book1


10ページぐらい立ち読みした時は、退屈な文体でつまらん。春樹は前より下手になったんじゃないか? と思ったが、通して読んでみるとすごかった。

とりわけ技巧的にすごい文体ではないが、別の世界を生きている天吾と青豆が徐々に交錯していくストーリーの組み立ては、今までもあったハルキっぽさを踏襲していて、女性向けにウケる作家の片鱗を見せている。

書評にはこれはカルトとエロの小説であるとよく書かれている。
実際カルトについてすごく真に迫った話だ。
単に状態としてのカルトの情報を盛り込んでいるのではなく、そこに関わってしまった人の心象をよく描いている。

村上春樹はそんな小説を書く人ではなかったはずだが、アンダーグラウンドを書いた時から何かが変わったのかね?

カルト集団というのは、単に偏向思想の集団というわけでもなく、メジャーな側から弾き出されてしまったが故に自己先鋭化した集団という場合もある。

つまりそれだけで悪と断定するのはどうかということだが、悪とは亜なる心。つまり心が異なる人々で、その場その文化を占める主流派と対比して異なる人々は基本的に「悪」になる。

なので、異民族、異宗教、異文化というのは基本的に人間にとっては悪になる。

ノーベル文学賞は、作家の技巧に対して贈られる賞というよりは、その時代の政治にとって重要な意味を持つ作品に対して贈られる賞と言ってよい。
選考基準があまりに政治的であることから、候補に挙がっていても受賞を蹴ってしまう人も少なからずいる。

村上春樹は去年、ノーベル文学賞候補としてかなり有力だった。
実際去年だったらかなり見込みはあったと思う。
今年はそういう話題にはなっていないし、政治的にもタイミングを逸したから、もう候補には挙がらないかも知れない。

1Q84が、ノーベル文学賞に価するぐらい、その手の方面に突っ込んだ作品であることは、通して読んでみてよく解った。

学生時代、中国からの留学生が、ニュースや歴史には載っていないことが、文学には表現されていることがある。
公式記録としては権力者から統制されて形に残らないが、文学作品の中に比喩としてその時代の息吹が生き残ることはあると。

いかにも中国人らしい意見だと思った。

中国や北朝鮮の情報統制は、前時代的で実に酷いものだと思っていたが、ここ2、3年で、日本のメディアも大して変わらないということはよく分かった。

中国人は、自分達が国家から情報統制を受けていることを自覚していて、統制されているなりに強かに自分達の意志を後世に残すことを意識している感がある。

日本人は、自分達が情報統制されていることを自覚していないだけに、中国人よりもより深く支配されているとも言える。